ワインに魅せられて40年。
私がお酒の仕事にかかわり始めた1974年頃、酒は楽しむよりは“酔うため”のものばかりでした。ワインがまだ生葡萄酒と言われていた当時、日本にはワイン用のぶどう畑もないのに、国産ワインが売られている状態だったのです。
ヨーロッパ系のワイン用のぶどうの栽培を始めたメーカーには、色々と情報を頂き、試飲もお願いしました。
そんな時、酒類問屋の常務さんが、フランスへワインの視察に行かれ、お土産に買ってこられたシャトー マルゴー1959を飲ませて頂くことが出来ました。素晴らしい香りで深い味わいでした。
本物のワインに出会い、ワインのバラエティの多さや、国ごとの特徴など、ワインを学ぶことが楽しくて仕方がなく、お客様にワインの味わう楽しさを伝えていきたいと考えました。
そして家業から独立して、自分の店を持つことができ、当時は珍しくワインに詳しい店主がいるお店として、ワイン好きのお客様が多く訪れ、ワインセミナーの講師として呼ばれるようになりました。周りにワインに詳しい店もなく、ワインのことを深く知っているのは自分だけだと、少し有頂天になっていたころ、ワインに関する最も敬愛していた先輩から思いもよらない厳しい言葉が飛んできました。
「君はワインのことを、何でも知っているような顔をしている。それでは、ワインは何にも語ってくれない。ワインの声が聞こえなくなったらどうするんだ。」
ワインの生産者の、ぶどうの栽培や醸造に関しての苦労や思いを理解せず、目の前のワインの味を評価するだけになっていて、ワインに対する謙虚さがなくなっていることに気付かされました。
それからは目の前のワインの造られてきた過程などにも、とことんしっかりと向き合い、一つ一つのワインに敬意と謙虚さをもって接するようになり、自分自身が本当に気に入ったものしか提供しないと心に決めると目の前がとても明るくなりました。
この出来事は、あらためて、「ワインはぶどうからできている」ことを私に認識させ、意識も行動も変えました。ぶどう畑に入って農家の皆さんとともに農作業をし、醸造にも携わるなど、より深く深くワインが好きになる大きなきっかけとなったのです。
ワインの輸入を始め、ヨーロッパへ買い付けに行った際も、必ずぶどう畑を訪問し、醸造設備を見学し、生産者の思いを聞き、それを伝えられるバイヤーを目指してきました。
その後は百貨店の直輸入ワインの仕入の責任者を10年勤めたのち、その経験を活かして、気楽にワインを楽しみ、生産者のワインに対する思いをお伝えするワインセミナーを多数開催し多くのみなさまにとって、ワインがますます好きになるきっかけづくりをお手伝いしています。
また、有難いことに40年にわたって、ワインを味わう楽しさを伝えてきたことや、多くのワイン生産者と交わり、各国のワイン商とも良好な関係を築いてきたことなどが評価され、2015年6月、900年以上の歴史のある「サンテミリオン騎士団」とボルドー メドックやグラーヴのトップシャトーや貴腐ワインのソーテルヌ地区のシャトーが集う「ボンタン騎士団」の2つから「名誉騎士」に叙任されました。
これからも、様々な人との出会いを通じて、ワインの楽しさを伝えられるよう取り組んでいきたいと思います。