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ワインの通信販売・ワインセミナー講師「ワインコンシェルジュまこと-ワインの数だけ物語がある-」

大寒波が造ったミュスカデ

フランスの庭と呼ばれるロワール地方。ロワール河沿いにシャンボール城など素敵な古城が多く建っている観光名所です。
中でも、中央フランスからゆったりと流れてくるロワール河が大西洋に流れ込む河口近くのナント地区(歴史的にはナントの勅令で有名)で造られているワインがミュスカデです。

gahag-0066073699-1 ミュスカデには、かつて、このナント地区を襲った異常気象によるとても悲しい歴史があるのです。
1709年にナント地区を襲ったとんでもない寒波は、ロワール河を凍結させ、この地区のぶどうは、ほとんど全滅してしまったのです。当然、ぶどうの生産者は大打撃を受けましたが、それでもワイン造りへの情熱を絶やしませんでした。

彼らは、とにかく寒さに強いぶどうを栽培しようと考えて、自分たちの地区よりもずっと気温が低い地区「ブルゴーニュ」で栽培されているぶどうに目をつけました。
 そこで選ばれたのが「ムロン・ド・ブルゴーニュ」と言う品種で、名前は「ブルゴーニュのメロンの香りのするぶどう」という意味です。その頃ブルゴーニュで栽培されていた「ムロン・ド・ブルゴーニュ」は名前の通りメロンの香りがしていたかもしれませんが、気候や土壌の違いからか、現在、ロワール地方で栽培されているミュスカデにはメロンの香りはありません。

この「ムロン」が、「ムスク(麝香・じゃこう)」となり、だんだん変化していって、「ミュスカデ」の語源になったと言われていますが、実際のところはよく分かっていません。
こうして、ナント地区の人々が探しもとめ、惚れ込み、今やロワール地方を代表するぶどうとなった「ムロン・ド・ブルゴーニュ(=ミュスカデ)」は、1709年の大寒波によって生まれたと言えます。
ちなみに、このミュスカデは、出身地であったブルゴーニュ地方では、現在ほとんど栽培されておらず、栽培面積は全体の1%にも満たないようです(ブルゴーニュワイン事務局の資料による)。
私も何度かブルゴーニュを訪問しましたが、一度もお目にかかっていません。

ところで、ミュスカデのラベルには、よくシュール・リー(sur lie=澱の上の意味)と書かれています。 一般的にはワインが出来ると、上澄みを他へ移し、底の澱は取り除くのですが(=澱引き)、ミュスカデの場合はそのまま春まで澱引きをせずにおいておくのです。
こうして、ワインが澱(酵母)と長い間接していくことで、酵母は自己分解してアミノ酸となり、ワインに旨みが溶け込んでいき、この製法は、雑菌などが繁殖しないよう温度管理が大切なので、ひと手間かけたコクのある美味しいワインと言えるでしょう。全てのミュスカデのワインが、この製法で造られているわけではありませんが、ラベルに(sur lie)と表示されているワインは、全てこの製法で造られています。
ちなみに、ロワールのナント地区で始められたこの製法は、現在、日本の甲州ぶどうで造られるワインにも導入されています。

fd401535 ミュスカデのワインを選ぶ時は、「ミュスカデ・ド・セーベル・エ・メーヌ・シュール・リー」とラベルに書いてあるものをお勧めします。
これは、最良のぶどうができるとされるセーベル川とメーヌ川の間の地区で、さらにシュール・リーをしたミュスカデという意味で、はずれはほとんどないと思います。
ミュスカデは細長いグリーン色の瓶に入っており、酸味がしっかりしている魚貝類にぴったりの辛口の白ワインです。
熱い夏にきりりと冷やしたミュスカデは、フレッシュでフルーティ。
パスタ料理にばっちりです。価格も手頃で1,000円~1,800円ほどで購入する事が出来るお買い得ワインです。

補足
ロワールのナント地区は、牡蠣の養殖がとても盛んな地区です。
ところが1970年頃に、山林の伐採などで、山地からの栄養分が河に流れ込まなくなり、生態系が壊れ、寄生虫が発生したりして、その当時養殖されていた、フランス牡蠣はほとんど全滅してしまったのです。
その時、養殖業者に牡蠣の稚貝を提供したのが日本の三陸海岸の養殖業者でした。ですので、いま、ミュスカデ地方で養殖されているのは、日本の真牡蠣なのです。
時を経て、東日本大震災の時に、フランスの牡蠣の養殖業者が東北の漁協に牡蠣の稚貝を送ってくれたのは、本当にこころ温まるニュースでしたね。

カテゴリ: 投稿日:2016-09-18