イタリアのワイン法とスーパー・タスカン(トスカーナ)
ワインセミナーなどで、イタリアのワイン法がわかりにくいというご質問が時々あります。イタリアのワイン法が何故ややこしいのか。
簡単にざっくり言うと、始めにかなり理不尽なワイン法を作ってしまい、なんだかんだと批判を受けるたびに、帳尻を合わすように法律を改正するせいで、現在でも時々理解し辛い格付けがされたりしていて、いまいち信頼度が薄い状態でいるためです。(笑)
詳しい経緯をお話しすると、昔イタリア政府はフランスがワインで外貨を稼いでいることに目を付け、イタリアにもワイン法を整備して輸出を増やそうと考えました。
1963年に成立したワイン法の中で、特に重要だと考えたのが、イタリアワインの独自性でした。
ですので、フランス固有のぶどうを使用したワイン、特に代表的なカベルネ・ソーヴィニヨンをブレンドしたものは最下位のレベル「VdT(ヴィノ・ダ・ターボラと呼ばれる単なるイタリアワイン)」に位置付けました。
逆に世界的に名前の知られている「キャンティ」を、個々のワインの品質に関係なくDOC(昔はDOCが最高ランク、現在は中でも高品質のものはDOCGに認定)に認定することでフランスとの差別化を図りましたが、そのためワイン法の信頼度は揺らぎました。
ですので、高ランクとされているDOCやDOCGに認定されているワインのすべてが、それぞれの品質的な基準に到達されているわけではないため、私は今でも一つの目安程度と考えています。
このワイン法が成立した当時、フランス系のぶどうに着目していたイタリアの醸造家はその理不尽な内容にあきれた事でしょう。しかし自分たちのワインに誇りを持っていた彼らは、ワイン法の規格を無視してDOCやDOCGを名乗れなくてもフランス系のぶどうで高品質のワインを造り続けました。
その代表格が「サッシカイヤ」です。
トスカーナ州の海寄りの地「ボルゲリ」で、カベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ・フランから造られたこのワインは、1990年代にアメリカ等に輸出されると品質の高さが認められ、世界的に大評判となり、「スーパー・ヴィノ・ダ・ターボラ」とか「スーパー・タスカン(トスカーナ)」とか呼ばれました。
この大評判を受けて、イタリア政府はサッシカイアに格付けを与えたため、今ではDOCボルゲリ・サッシカイアという、このワインのみのDOCが与えられています。
一つのワインの為だけにDOCが与えられているのは「サッシカイヤ」のみで、当時としては、よほどの特例措置だった事が伺えます。でも最高ランクのDOCGではないのがイタリア政府の意地のようなものが感じられてちょっと面白いですね。
このように品質の高いワインに対し後追いの形でワイン法が改正されていくのでイタリアのワイン法はより理解しにくいところが多くなっています。
トスカーナは「スーパー・タスカン」や「スーパー・ヴィノ・ダ・ターボラ」と呼ばれるワインをたくさん世に出している地域です。
「スーパー・タスカン」と呼ばれるワインには、3つの大きなグループに分けられます。
1つ目は「サッシカイア」のように、ボルドー系のブドウだけで造られたスーパー・タスカンで、他にテヌータ・デル・オルネライア社の「オルネライア」や、アンティノリ社の「ソライア」が有名です。スーパー・ヴィノ・ダ・ターボラと呼ばれたこれらのワインは、現在「オルネライア」がDOC,「ソライア」がIGTに認定されています。
2つ目はイタリア古来品種のサンジョベーゼにフランス系のぶどうをブレンドした「スーパー・タスカン」。その代表が「ルーチェ」です。
ルーチェはアメリカ・カリフォルニアのモンダヴィ一族の先祖への想いから始まりました。
カリフォルニアワインで大成功を収めたロバート・モンダヴィは自分たちのルーツを調べて行った結果、イタリアのトスカーナの出身だと解りました。
モンダヴィはトスカーナでのワインづくりを思い、パートナーとしてフレスコ・バルディ社を選びました。
フレスコ・バルディがブルネッロに所有する最上のサンジョベーゼの畑と、そのすぐ下の畑に新たにメルローを植えてブレンドを繰り返し、エレガントなワインが出来上がり、1995年にルーチェを初リリースしました。
そのワインがいきなりアメリカのワイン専門誌『ワインスペクテーター』で世界のワインTOP100の41位に選ばれ、パーカーポイント93を勝ち取ったのです。
3つ目はもともとDOCGキャンティ・クラシコを名乗れたにもかかわらず、自分たちの目指すワインを造るため、格下げされるのを承知でチャレンジしたグループです。
その頃のキャンティワインは黒ぶどうのサンジョベーゼに白ぶどうを20%未満でブレンドすることをワイン法で義務付けられていました。それに反発して黒ぶどうのみでワインを造ったためにヴィノ・ダ・ターボラになってしまったワインです。
アンティノリ社の「ティニャネロ」はサンジョベーゼにフランス系のぶどうをブレンドしました。
試行錯誤の結果1982年にきめられた黄金比率で、現在はサンジョベーゼ80%、カベルネ・ソーヴィニヨン15%、カベルネ・フラン5%で造られています。
「ティニャネロ」は圧倒するような華やかなワインと言うよりは、じわじわとワインのうまみが広がって行くエレガントなトスカーナワインです。
同じようにDOCGキャンティ・クラシコからヴィノ・ダ・ターボラになったのが、モンテ・ヴェルティネの「レ・ペルゴーレ・トルテ」です。
このワインはめずらしく、フランス系のワインはブレンドせず、とことんサンジョベーゼ100%にこだわって造られました。
「レ・ペルゴーレ・トルテ」は硬いワインのイメージがありますが、口に含むととてもなめらかです。ただ飲み頃が難しく、若いうちに飲むととてもタンニンが強いワインです。
キャンティ・クラシコはワイン法が改正され、白ぶどうを入れずに、サンジョベーゼ100%で造ってもDOCGキャンティ・クラシコと名乗れるようになりましたが、どちらも現在は、DOCGキャンティ・クラシコを名乗らず、あえてIGTトスカーナを名乗っています。